顧客も社員も大切にしなかった企業の末路

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外国人社長

昔勤めていた日本IBMが56年ぶり1に外国人社長になりました。 とうとう来たかという感じで、むしろ遅すぎたくらいです。 日本IBMの業績は2001年をピークに毎年売上が減り続け、10年で売上が半減しました。 この間にはPC事業やHDD事業の売却もありますが、 IBM Corporationがこの間売上を伸ばしていること、 また日本経済全体やITサービスを行っている他の企業と比較しても、 その不調ぶりが際立っています。

IBM=ブラック企業

その日本IBMの内情はどうだったのでしょうか。 はっきり言うとブラック企業です。 個人的な経験は以前Twitterでつぶやいたのをまとめてもらいましたが、 ここではもっと一般的な話をします。

社員を犠牲に高い利益を上げる

まず、日本IBMの特徴として高い利益が挙げられます。 2011年でも940億円の経常黒字です。 一見優良企業のように見えますが、内部から見ると全く違います。 実際の金額は分かりませんが、日本IBMは他社に比べて高いという話を聞きます。 そしてWikipediaにあるように 「恒常的な事業売却とリストラや昇進・昇給の凍結、減俸を含む徹底的なコスト削減努力」 が行われています。つまり、ユーザには高い金を請求して、 社員には還元しない、それが日本IBMの高利益率の理由です。

社内プロセス地獄

さらに酷いことに、日本IBMは社内プロセス地獄と言われるほどの、 硬直化した組織があります。 例えば社内にテスト用マシンを構築するためにIPアドレスを取得するだけでも プロジェクトのお金が必要で、申請してから3日かかります。 マシン調達には二週間はかかりました。

生産性が低いまま

そして、生産性向上のために投資をしません。 PCも低価格低スペックのものしか原則として割り当てられず、 しまいにはコスト削減と称して新規PC配布を延期する有様です。 結局2002年に配布されたPCを最後まで使っていました。 また、2002年にRational Softwareを買収しましたが、 自分が知っている限り、社内でRationalのソフトはほとんど使用されていませんでした。

バイトで十分な仕事をやらせる

最後に、社員の能力に見合った仕事を与えていないという問題があります。 例えば自分が2008年にやった仕事は、 ただテスト仕様書に従って黙々とテストをするだけの単調な内容でした。 仕事のレベルを考えると1000円のバイトで十分なレベルですが、 これを7年目の社員にやらせています。

以上をまとめると次のようになります。もちろんこれだけではないですが。

  • 社内プロセス地獄&スキルに見合った仕事をさせないため高コスト
  • 投資をしないので低生産性のまま
  • 利益は社員には還元しない
  • 低生産性、高コストをそのまま顧客に押しつける

考えたら負け

当然顧客離れを引き起こしますし、優秀な社員は逃げていきます。 この日本IBMを象徴している書き込みが2chにあります2

社員はただのリソース=デスクやボールペンと同じ、それがI式の思考方式。 しかもその思考はますます近年強まりつつある。 いまの状況では、新卒・中途に関わらずIに入社するほどバカバカしいことはない。 せっかく身につけた知識・スキル、そして経験・キャリアは、 いっさいムダになる。プロセス地獄でアタマを使う必要は無い。 ここ5年間でアタマを使えば使うほどうまくいかなくなる会社に変貌した。 ようするに低IQに堕ちた今のIでは、そのレベルに合わせなければ、 社内政治に生き残ることすらおぼつかない。 その結果としての業績低迷であり、 多少Bottomを切ったところでもはや修正できる話ではない。

日本IBMの社訓は「THINK」ですが、実際は真逆、考えたら負けの会社でした。

IBMは復活するのか

ではこの日本IBMは復活するのでしょうか? 三行半を突きつけた自分が言える立場ではないですが、せっかくなので書いてみます。

日本のメーカーなどに比べて有利なのはIBMという強力な後ろ盾があることです3。 IBMの製品は競争力があります。ただ生産性が非常に低いだけです。 そのために必要なのは一時的に利益を減らしてでも生産性を上げる投資をすることです。

手続きは原則廃止

まず第一に、社内プロセス地獄を解消する必要があります。 いつものようにドラッカーの発言を引用します4

かつてドラッカーは、ある公益事業に提案して、 報告と手続きを2ヵ月廃止し、現場が必要とするものだけを復活させたという。 その結果、報告と手続きを4分の3削減させたという。 報告と手続きは記入する者の道具でなければならない。 記入者を評価するための道具にしてはならない。 記入の出来栄えによって仕事を評価してはならない。 記入ぶりによって評価してよいのは、記入を仕事にしている事務員だけである。 「報告と手続きのすべてについて、本当に必要かを定期的に検討する必要がある。 5年に一度は、すべての書式を見直さなければならない」

最低限必要なものは、IBMが上場会社として投資家に報告するための財務的な資料でしょう。 他は原則廃止くらいでちょうどいいです。

生産性のための投資

次に、生産性を上げるために投資することが必要です。 社内のシステムを使うのにプロジェクトの予算が必要なのは異常です。 開発者にはRationalのソフトに限らず生産性を上げるために必要なものは積極的に採用し、 マシンも良いものを提供する必要があります。

人材配置の最適化

最後に人材配置の最適化です。ここが一番難しいです。 ただ確実なのは、これまで日本IBMがやってきたような、必然性もない、 ビジョンもない人員削減は首を絞めるだけということです。 例えば「ライフサイクル イノベーション」に書かれているように、 製品そのものではなく「発明」「展開」「改善」に人材を配分して、 それぞれのスキルを活かすのは一つの手でしょう。

別に自分自身はどうでもいいですが、人材を活かせないのは罪なので、 一刻も早くブラック企業から脱出してください。 それが出来ないのなら有害なので日本から出て行ってください(・ω・)


  1. この記事を書いたのは2012年です。 ↩︎

  2. 日本IBMってブラック企業なんですね ↩︎

  3. 2017年では「もはや何売ってるの?」という会社ですが、2012年時点ではそう見えませんでした。 ↩︎

  4. 報告と手続きは道具であって支配者ではない | 3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言 | ダイヤモンド・オンライン ↩︎